第十六回心霊廃墟OFF(富士山麓編) 上巻

吾ほどになると自由を埋める難しさを知るものだ。
カレンダーに赤丸をつけた休日を少し邂逅してみるとしやう。
それは最大の寒波が迫る真冬の話。
我々は約400kmという途方も無い距離を移動しておつた。
かような遠の地にいったい何があるというのか?
金か、楽か、はたまた女か?
民々には言って聞かせても理解は出来まい。
その先には我々にしかわからぬ浪漫がある。
大体にして、我々は時代の波に乗らない離岸流的集団である。
いまさら常識なぞにとらわれはせぬのである。
運行中、鬼太郎君は仕事で疲労困憊、寝ておったが
アーチスト君はなかなか元気で
「運転手君、この写真を見てみたまえ。」と
グロ写真をとりだす始末。
吾も「ほう、君これはなかなか。」と問い返し、
起きた鬼太郎君も交え約7時間、愚にもつかぬ話に花を咲かす。
三島駅で、当世西洋人のような蜜柑色の髪をしたJC君と合流す。
UG4が完全集結を果たしたのは第八回H川OFF以来、約10ヶ月ぶりである。
再会の感動もそこそこに伊豆あまたの観光地を無視し一路下田に向かう。
「諸君、これより廃墟、樹海で肢体を弄ぼうぞ。」と叫ぶと
「うっひょぉおおおwww」と返す声あり。
これがUG4クオリティである。
途中に立ち寄った「伊豆スポーツワールド」は今は昔、完全に更地となりはててあつた。
水のないウォータースライダーを転げ落ちたかったと、
大坂から持ちよった高揚感を昇華させることができず、
吾は欲求不満に落ちていた。
かくして、下田の海鮮丼屋に着く。
JC君は女子店員に「んー、君がここのオススメかな?」と
言葉巧みに女子を持ち替えらんとする勢いであつた。
しかし、それもまた、愛しい離岸流である。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている。
ニーチェ伯の言葉である。
私はS御苑に入った習慣感じた、むぅとしたカビの匂いの中でその言葉を思い出した。
この巨大旅館廃墟は深く入れば入れるほど、姿を変え哲学者の言う深淵、心の内面に潜る。
その所作は退廃に美を見出す行為であると同時に
深淵、つまり廃墟に飲み込まれ、魅入られる所作であることに気づく。

そうこう突き進み、我々は天井から崩れ落ちたスポンジに
「日本アスベスト」と記されているのを見るやいなや
口元を布で覆い、すたこらと逃げたのだ。
雨雲の中、次に向かったのは、I隔離病棟である。
トンネル前で見事、零距離駐車をするJC君。
ワラベットの廃墟に懐かしさを感じつつも、
圧巻は、西洋東洋ともつかぬ不可思議な能力を発揮する
アーチスト君であった。


崩れ落ちた道路を見たければ、伊豆に行けばよい。
このループ橋は五重塔のように高い。
皆が崖下に近寄る所作を見たが
吾が同じことすればお約束どおり落ちると確信に至り、
膝がガクブルしたので、近寄らず。

夕陽にはゆる廃線が見たい。
伊豆はそんな思いにすら答えてくれる。
大体の憶測でスクラップ工場に忍びこみ
廃線に向かうが藪と闇に阻まれ断念。
残念である。
仕方なしと、街へ出て夕食を取り、山上の宿に向かう。
その内に雨は細雪となり、宿に着く頃には本格的な雪となつた。
そして宿の温泉に浸り、布団でうだうだしていると
疲れからか、実にまなこが重くなり、
鬼太郎君とJC君の声が蛍光灯にそって回転し
光と音がまるで糸が切れるように消え失せ、暗闇となった。
そこから、どのくらいの時間がたったのか。
暗闇を抜け、朝の明かりに目を覚ました。
シャーとカーテンを開けると、そこはいちめん、雪国であつた。
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