第十六回心霊廃墟OFF(富士山麓編) 仄暗き世界で 下巻

そんな、いちめんの雪国で、凍える者たちがいた。
それを一瞥(いちべつ)し
「あながんばれ。いとがんばれ」
やんややんやとJC君と吾は、力の限りエール的な何かを送ったが。
むろん、手出しなぞせぬ。
30分あまりでようやく鎖が付き、自動車は発進した。
箱根の関を通り掛かると、
富士の山すら見えぬ白く染まった雪景色の中で
脱輪した自動車が身動きも取れずにうずくもっておった。
「おうい。脱輪してしちまつたのかね?」
勿論、そんな声を掛けることもなく、
「鎖を付けぬほうが悪いw」とうそぶき、突き進む。
山梨に着き「あついあつい。」と ほうとうなる郷土料理に舌鼓をうつ。
その後、新雪を掻きわけ青木ヶ原樹海なる森へ入り、着いたのは富士風穴という大穴であつた。

ぽっかりと開いたそこに足を入れるとだいぶ奥行きもありそうだ。
その堂々たる洞窟ぶりに心が浮かれ始める。

洞窟に入ると、やけに鋭角的に尖ったつららを愛でて楽しむ。
ちなみに鋭角恐怖症の鬼太郎君だけは
ブルブルと震えておった。
彼のその姿に嗜虐心を刺激され
「つららが落ちてきたら、君の脳天から肛門に突き抜けちまうかもな。」
と言おうとしたが
紳士たれとの親父殿との約束を思い出し、ぐっと堪える。
そうこうする内に地面はスケートリンク場のように一面が氷となりはてていた。
「あな、おそろしや」とつぶやくも突き進む吾。
勾配のある場所を腰をおろし通過すると
ニヤニヤ顔のアーチスト君が
「戻ってきたまえ。その算段が出来なければ僕は行かぬ。」とのたまった。
恥辱!!ああ、吾はハメられたのだ。
横手の岩肌にへばりつき
はぁはぁと息を切らせる何とか引き返すと
アーチスト君は「へえ、できるか。ごくろう」といい残し
腰を落とし滑り始めた。
曲がりなりにも最年長の吾を実験台に使う
この卑怯千万な男にGWがなくなる呪いをかけておいたが、
「うわああああ」と氷の坂でブザマに転げ落ちる彼の姿を目の当たりにして
わ、笑ってはならぬ、笑ってはならぬ!と
小刻みに震えるカラダを抑え、
その衝動を、なんとかこらえた・・・そう思った瞬間、
あろうことか、立ち往生する鬼太郎君にケリをかまし、
なお制御不能なまま転げ落ちていくアーチスト君のマヌケな姿に、
紳士たれとの親父殿との約束を忘れ
吾は遠慮のない笑い声を洞窟中に反響させてしまつたのである。
冒頭にも書いたが今回の目的は肢体多発地帯の青木ヶ原樹海で
したいと戯れることが目的であつた。
何故と問われると答えに窮し、
UG4だからだ と答えるしかない。
さて、少し科学的見地を述べると、
ぐちゃぐちゃに轢死した甲虫のムクロに
同種の虫が群がる現象がある。
近年の研究によると死骸から滲みでたホルモンなるものが
同種の虫を呼び寄せることが原因らしい。
彼らがドロドロに融解した同胞(はらから)の香りに
惹かれるのと同様に
UG4も、画像では味わえぬ本物の香りに
惹かれてしまったのかもしれない。。
そんなこんなで洞窟をでた後も、
こりもせずふらふらと青木ヶ原樹海を散策する。
雪がビュービューと降りしきる中、
青木ヶ原樹海の内蔵をふらふらと。
死体を探しながら。


その日は結句、お目当てが見つからず、宿に入る。
明日は晴れである。と予報士の声がテレビから聞こえた。
食後、露天風呂に浸り空を見上げると
先ほどの雪雲が胡散霧消し、星明かりが見え始めた。
「綺麗だな。星が瞬いている。」
そう言うと誰かが
「いや、あの光は富士の山の展望台の灯にちがいない」、
そう言うと次の誰かが
「いや、あの光は万国首都の灯ぞw」なぞとのたまい
まるで星座を紹介するように、
あれは北京、あれはパリ、あの大きなのはワシントンと指差す。
瞬いているのは信号ぞというので
何と言っているのかと問い返すと
「はろー、でぃすいず ワシントン」だと言う。
地動説どころか、天動説すら否定するとはと、
おそれいったと大いに笑いし後、
じっとワシントンの灯をみると
妙なもので、吾にも点滅信号が読み取れた。
はろー、でぃすいず ワシントン
畢竟、お目当てがなくとも、
雪が溶けた後に、
青い森の内蔵をまた探せばいい。
青木ヶ原はここに変わらずにあると。
だから吾の8月の予定は空いたままである。
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